
お料理や、理科の実験の際に「浸透圧」って用語を耳にしたことありますよね?
水分が移動する現象で、きゅうりに塩を振ると水がじわじわ出てきたり、お風呂に長く浸かっていると指先がシワシワになったりします。
ですが、一体どんな原理で移動するのでしょうか?
今回は、そんな「浸透圧(しんとうあつ)」の仕組みと、「いったい何が水を動かしているの?」というエネルギーの秘密を、身近なナゾを解き明かしながら一緒に見ていきましょう。
身近な「なぜ?」から広がる浸透圧の正体
水の粒には「濃さをそろえたい」という大原則がある
秘密を解くカギは、世の中のエネルギーが持つある性質にあります。
水の中に塩や砂糖などが溶けているとき、その「濃さ」を全体で均一(同じ濃さ)にしようとする特別な働きが生まれます。
たとえば、物凄く濃い紅茶と物凄く薄い紅茶が混ざり合うと、ちょうど真ん中の濃さになりますよね。水には「濃い場所を見つけると、そこへ移動して薄めてあげよう!」という、とてもおせっかいで優しい性質が備わっているのです。
細胞の「見張り番」半透膜(はんとうまく)
ここで、きゅうりの体を拡大して見てみましょう。きゅうりも私たち人間と同じように、「細胞(さいぼう)」という目に見えないほど小さな部屋がたくさん集まってできています。
そして、細胞の壁には「半透膜(はんとうまく)」と呼ばれる、特別な網目を持った膜があります。この膜はとても優秀な見張り番で、小さな「水の粒」は自由に通り抜けさせますが、水より体が大きい「塩の粒」は通しません。

きゅうりの外側に塩をかけると、外側は「超濃厚な塩水」になり、内側は「普通の薄い水分」のままになります。すると、外側の濃さを薄めようとして、きゅうりの内側にあった水が一斉に外へ飛び出していきます。これが、きゅうりから水があふれ出てくる理由です。
疑問を深掘り!水を移動させるエネルギーの正体とは?
「水が移動する理由は分かったけれど、誰かがポンプで押し出しているわけでもないのに、動くエネルギーはどこから湧いてくるの?」と疑問に思いますよね。とても鋭い着眼点です。
粒たちが生まれつき持っている「熱運動エネルギー」
実は、水や塩の粒(分子)は、じっと止まっているわけではありません。目には見えませんが、常にブルブルと震えたり、あちこちへ猛スピードで飛び回ったりしています。これを理科の世界では「熱運動(ねつうんどう)」と呼びます。
粒たちが飛び回る元気の源は、周りの温度(熱エネルギー)です。温かい部屋や手のぬくもりがあるだけで、水の粒たちは常に激しく動き回るエネルギーをもらっています。誰かがスイッチを押さなくても、水自身が最初から「自分で勝手に動き回るエネルギー」を持っているのです。
ぶつかる回数の違いが「水を押す力」に変わる
では、なぜそのエネルギーが「濃いほうへ進む一方通行の流れ」になるのでしょうか。
ここでも、あの見張り番「半透膜」が関係しています。

- 薄い水(きゅうりの内側):
膜のまわりには、小さな水の粒しかいません。たくさんの水の粒が、膜の穴めがけて元気よく飛び込んでは通り抜けていきます。 - 濃い塩水(きゅうりの外側):
膜のまわりには、水の粒だけでなく、大きな塩の粒もたくさんウロウロしています。すると、塩の粒が邪魔をして、水の粒が膜の穴へ飛び込むチャンスを減らしてしまいます。
結果として、「内側から外側へ飛び出す水の数」のほうが、「外側から内側へ戻ってくる水の数」よりも圧倒的に多くなります。水の粒たちが持つ熱運動エネルギーが、膜の両側での「ぶつかりやすさの差」を生み出し、全体として水がグイグイと濃いほうへ押し出されるエネルギーになるのです。
暮らしの中の浸透圧!びっくり実験室
ナメクジに塩をかけると小さくなる理由
雨の日の庭先などで見かけるナメクジ。「塩をかけると溶けて消えてしまう」と聞いたことがあるかもしれませんが、実は溶けているわけではありません。
ナメクジの体の表面は、とても薄い皮膚で覆われていて、水分が筒抜けになりやすい状態になっています。そこに塩をかけると、先ほどのきゅうりと全く同じ現象が起きます。
ナメクジの体の外側がものすごく濃い塩水になるため、体の水分が外へ引っ張り出されてしまいます。つまり、溶けて消えたのではなく、体の水分を急激に奪われてギュッと縮んでしまっていたのです。
お風呂に入ると指先がシワシワになるわけ
湯船に長居したあと、自分の手を見て「おばあちゃんの手みたい!」と驚いたことはありませんか。
これも浸透圧が関係しています。お風呂のお湯は、私たちの体液(血液や細胞の中の水分)よりも塩分が薄い状態です。そのため、今度は逆に「外のお湯が、体の皮膚の細胞へ入ってこよう」とします。
手のひらや足の裏の角質層という部分が水分を吸って膨らみますが、その下にある皮膚とくっついているため、逃げ場を失った表面の皮膚が波打ってシワシワになるのです。
喉が渇いたときに海水を飲んではいけない理由
無人島のアニメや物語で、「喉がカラカラでも、絶対に海水を飲んではいけない」という場面を見たことがあるかもしれません。「同じ水なんだから飲んでも平気じゃないの?」と思いますよね。
実は、海水を飲むと、余計に喉が渇いて命に関わる事態になります。海水の塩分濃度は約3.5%で、人間の体液(約0.9%)よりもずっと濃いのです。
濃い塩水が胃や腸に入ってくると、体は「薄めなきゃ!」と大慌てになり、血管や細胞から大切な水分を腸の中へと差し出してしまいます。さらに、余分な塩分をおしっこにして外に出すためにも大量の水が必要になるため、飲めば飲むほど体から水分が失われて干からびてしまうのです。
もっと知りたい!専門的な解説(ステップアップ)
もっと深く調べてみたい人のために、高校や大学の化学・生物・物理で習う少し専門的なポイントを紹介します。
- 熱力学と「エントロピーの増大」
自然界には「乱雑さ(バラバラな度合い=エントロピー)がどんどん増える方向へ進む」という大原則があります。水が移動して濃度が均一になる現象も、この熱力学的な法則(自由エネルギーを最小にしようとする働き)で説明されます。興味がある人は「化学ポテンシャル」という言葉を調べてみてください。 - ファントホッフの法則(浸透圧の計算)
浸透圧の大きさ(どれくらいの力で水を引き寄せるか)は、液体の温度と、溶けている物質の粒の数に比例します。公式で表すと次のようになります。
P = C × R × T
(P: 浸透圧、C: モル濃度、R: 気体定数、T: 絶対温度)
気体の状態方程式とまったく同じ形をしているのがとても面白いところです。温度(T)が入っていることからも、粒の熱運動が深く関わっていることがよく分かります。 - 医療現場で活躍する「生理食塩水」
病院で点滴をするとき、ただの真水を血管に入れると赤血球が水を吸って破裂(溶血)してしまいます。そのため、人間の体液とまったく同じ浸透圧(約0.9%の食塩水)に調整した水が使われています。
まとめ
浸透圧とは、水の粒が持つ熱運動エネルギーによって、濃さを均一にそろえようとして移動するときに生まれる力のことです。
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参照元
- 文部科学省「高等学校学習指導要領解説 理科編」
https://www.mext.go.jp/ - 大塚製薬「水分補給と浸透圧のメカニズム」
https://www.otsuka.co.jp/ - 国立科学博物館「植物の吸水と浸透圧」
https://www.kahaku.go.jp/

