普段のお料理で見かける「あれ?」から始めよう
みなさんは、お家でカップラーメンを作るときや、お味噌汁を作るときにお鍋のお湯を沸かしたことがありますよね。お鍋の底からプツプツと泡が出てきて、グラグラと沸き立つお湯。「水は100℃になったら沸騰する」と学校の理科で習ったことがあるかもしれません。
でも、実は「水が100℃で沸騰する」というのは、私たちがいつも過ごしている平地だけのルールだということをご存じでしょうか。
もしも、日本で一番高い富士山の頂上でお湯を沸かしたらどうなると思いますか。
実は、100℃になるずっと前、だいたい88℃くらいでお湯がボコボコと沸騰してしまいます。温度が足りないため、お米を炊こうとしても芯が残ってうまく炊けません。
どうして場所が変わると、お湯が沸く温度が変わってしまうのでしょうか。今回は、空気の力である「気圧」とお湯の不思議な関係を一緒に解き明かしていきましょう。
どうして場所によって沸騰する温度が変わるの?
目に見えない空気の力「気圧」ってなに?
私たちの周りには空気がたくさんあります。空気は目に見えませんし、普段は重さを感じることもありませんよね。しかし、地球を包んでいる空気には重さがあり、私たちはいつも空気からギュッと押されています。

この「空気が上から(周りから)押しつけてくる力」のことを気圧(きあつ)と呼びます。
私たちが普段暮らしている平地には、頭の上にたくさんの空気が積み重なっています。しかし、山の上に登るとどうでしょうか。山の上に登った分だけ、自分の頭の上にある空気の量が減りますよね。そのため、高いところへ行けば行くほど、空気が押しつける力、つまり気圧は低くなります。
水が沸騰するってどういうこと?
水は、小さな粒(分子)が集まってできています。水を火にかけて熱していくと、水の中の粒たちが元気に動き回り始めます。
温度が高くなるにつれて粒たちの動きは激しくなり、「水の中から空気中へ飛び出して水蒸気になりたい!」と外へ向かって強い力(蒸気圧)で押し返そうとします。
ところが、水の上には空気が乗っかっていて、上からギュッとフタをするように押さえつけています。
- 平地の場合:
空気が強い力で押さえつけているので、水は100℃まで熱くなって強い力を出さないと、空気を押し返して水蒸気の泡になれません。

- 山の上(気圧が低い場所)の場合:
空気が押さえつける力が弱いため、水はそこまで強い力を出さなくても、低い温度(88℃など)で簡単に空気を押し返して泡になり、飛び出していくことができます。

つまり、「上から押さえつける空気のフタの重さ」によって、水が沸騰できる温度が決まっているのです。
身近な道具「圧力鍋」の仕組みを見てみよう
山の上とは逆に、「空気が押さえつける力をわざと強くした道具」がお家にあるのを見たことはありませんか。それが圧力鍋(あつりょくなべ)です。
圧力鍋は、重いフタでしっかりと密閉して、鍋の中の空気を逃がさないようにします。火にかけると鍋の中の水蒸気が増えて、水を押さえつける力が平地よりもずっと強くなります。
すると、水は100℃になっても外へ飛び出せず、120℃近くになるまで沸騰しません。とても熱い温度でお料理ができるため、硬いお肉やお魚の骨も短時間で柔らかく煮込むことができるのです。
【もっと詳しく知りたい人へ】専門的な科学の仕組み
蒸気圧と大気圧のつり合い
科学的に説明すると、液体が沸騰する現象は「液体の飽和蒸気圧が周囲の外圧(大気圧)と等しくなる状態」と定義されます。
液体は常に表面から蒸発しようとしており、その飛び出そうとする圧力を「蒸気圧」と呼びます。蒸気圧は温度が上がるほど指数関数的に高くなります。
- 蒸発:液体の表面からのみ気化する現象(蒸気圧が外圧より低い状態でも起こる)。
- 沸騰:液体の蒸気圧が外圧と同じになり、表面だけでなく液体の内部からも気化が起きて気泡が発生する現象。
1気圧(1013.25ヘクトパスカル)の標準状態において、純粋な水の飽和蒸気圧がちょうど1気圧になる温度が「100℃」です。したがって、標高が高く外圧が低い環境では、より低い蒸気圧(=低い温度)で外圧とつり合うため、沸点が下がります。
気圧と沸点の関係を表す式
熱力学において、相転移に伴う圧力と温度の関係はクラウジウス・クラペイロンの式によって記述されます。
式:dp / dT = L / (T * ΔV)
- dp / dT:温度変化に対する蒸気圧の変化率
- L:蒸発潜熱(水が水蒸気に変わるときに必要な熱量)
- T:絶対温度
- ΔV:体積の変化量(水蒸気の体積 – 水の体積)
液体の水が水蒸気に変わるとき、体積は1000倍以上に大きく膨張します(ΔVが正の大きな値をとる)。このため、圧力(p)が高くなると沸騰に必要な温度(T)も上昇し、圧力が低くなると沸騰温度も低くなるという関係が成り立ちます。
まとめ
お湯が沸騰する温度は、いつも100℃と決まっているわけではありません。
- 水は、熱くなって元気に動く粒が空気のフタ(気圧)を押し返すことで沸騰する。
- 富士山のような高い山の上では、空気が薄くて押さえつける力が弱いため、100℃より低い温度で沸騰する。
- 反対に、圧力鍋のように強い力で押さえつけると、100℃よりも高い温度でお湯が沸く。
毎日当たり前のように見ているお湯が沸く様子にも、地球の空気の力や科学の面白い仕組みがたくさん隠れています。次に台所でお湯を沸かすときは、ぜひ目に見えない空気のフタのことを思い出してみてくださいね。
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参照元
- 気象庁「気圧と標高の関係について」https://www.jma.go.jp/
- 文部科学省「小学校理科 指導資料(もののあたたまり方と状態変化)」https://www.mext.go.jp/
- 国立科学博物館 理化学系展示解説資料「物質の状態変化と圧力」https://www.kahaku.go.jp/

