世界的なショコラティエ、ピエール マルコリーニ(Pierre Marcolini)。日本でも高級チョコレートの代名詞として、バレンタインシーズンのみならず、日常のラグジュアリーとしてその名を轟かせています。
しかし、彼が単なる「チョコレート職人」に留まらず、なぜ「ベルギー王室御用達」の称号を得、さらには「世界最優秀パティシエ」にまで登り詰めたのか。その裏側には、彼が20年以上前から提唱し続けてきた「ビーン トゥ バー(Bean to Bar)」への狂気とも言える情熱があります。本記事では、彼の生い立ちから、独自の哲学、そして日本での成功の軌跡まで、事実に基づき詳細に解説します。
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ベルギー王室御用達、ピエール マルコリーニの真髄に迫る
ピエール マルコリーニは、1964年にベルギーで生まれた、現代を代表するショコラティエ、パティシエ、グラシエ(アイスクリーム職人)、コンフィズール(砂糖菓子職人)です。
2015年にはベルギー王室御用達(Fournisseur Breveté de la Cour de Belgique)の称号を授与され、2020年にはイタリアで開催された「ワールド・パティスリー・スターズ(WPS)」において、世界最優秀パティシエに選出されました。名実ともに、現代スイーツ界の頂点に立つ人物の一人です。
ピエール マルコリーニのルーツと歩み
イタリアにルーツを持つベルギーの至宝
ピエール マルコリーニは1964年、ベルギーのシャルルロワに生まれました。祖父母がイタリアのヴェローナ出身というイタリア系の家系であり、彼自身の感性にはベルギーの伝統的な技術と、イタリア的な創造性が融合していると言われます。
彼は14歳の若さで「自分は将来ショコラティエになる」と決意しました。そのきっかけは、毎週日曜日に母親が買ってくるお菓子に魅了され、自分でも周囲を驚かせ、喜ばせるような魔法を作りたいという純粋な好奇心でした。
世界一の称号とブランドの誕生
1995年は、マルコリーニのキャリアにおいて最も重要な年となりました。 フランスのリヨンで開催されたパティシエの世界大会「クープ・ド・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」にベルギー代表として出場し、見事優勝を果たしたのです。この時彼が披露した、複数のテクスチャーを組み合わせた作品「L’Envol(アンヴォル)」は、当時の菓子界に衝撃を与えました。
同年、彼はブリュッセルのサブロン広場に自身の最初のアトリエをオープンし、ブランド「メゾン ピエール マルコリーニ」をスタートさせました。
徹底解説:ビーン トゥ バー(Bean to Bar)の革命
マルコリーニを唯一無二の存在たらしめているのが、「ビーン トゥ バー」という製造スタイルです。これは、カカオ豆(Bean)の仕入れから板チョコ(Bar)になるまでの全工程を自社で一貫して管理することを指します。
なぜ自社一貫製造にこだわるのか
20年以上前、高級ショコラティエの多くは、大手メーカーが製造した既製品のチョコレート(クーベルチュール)を購入し、それを再加工して製品を作っていました。しかしマルコリーニは、メーカーが提供する「画一化された味」に限界を感じていました。
「自分の理想とする香りと味を表現するには、カカオ豆という原料そのものから向き合う必要がある」と考えた彼は、当時の常識を覆し、自らカカオ豆を焙煎する機械をアトリエに導入したのです。
妥協なき「カカオハンティング」とダイレクト・トレード
マルコリーニは、毎年数ヶ月をかけて世界中のカカオ農園(ブラジル、キューバ、エクアドル、ベトナム、マダガスカルなど)を自ら訪れます。
- 直接契約: 中間業者を介さず、農園主と直接対話し、最高品質の豆を確保します。
- 適正価格(フェアトレード): 市場価格よりも高い対価を支払うことで、農家が持続可能な栽培を続けられる環境を整えます。
- 倫理的基準: 児童労働の禁止や、農薬の使用制限など、厳格な基準をクリアした豆のみを買い付けます。
ビーン トゥ バーの精密な製造プロセス
ベルギー・ハーレンにある彼のアトリエでは、厳選された豆が以下の工程を経て魔法のチョコレートへと姿を変えます。
- 選別(Sorting): 届いた豆の中から不純物や欠けのある豆を手作業で取り除きます。
- 焙煎(Roasting): 豆の産地や特性(フローラル、フルーティ、スパイシーなど)に合わせ、温度と時間を微調整します。マルコリーニは繊細な香りを残すため、比較的「低温」で焙煎することを重視しています。
- 粉砕と風選(Cracking & Winnowing): 外皮を取り除き、カカオの胚乳部分である「カカオニブ」を取り出します。
- 磨砕と精錬(Grinding & Conching): カカオニブを数日間かけて滑らかに挽きます。この「コンチング」と呼ばれる工程で熱と空気を加えることで、カカオ本来の香りを引き立てつつ、不必要な酸味や雑味を飛ばします。
- 調合: カカオの個性を際立たせるため、加える砂糖は最小限に抑えられます。
- テンパリング: チョコレートの結晶を安定させ、美しい光沢と心地よい口溶けを生み出します。
日本での成功と人気の理由
ピエール マルコリーニが日本でこれほどまでに定着したのには、戦略的な進出と、日本人の味覚への深い理解があります。
銀座から始まった「高級ショコラ」の文化
2001年、日本初進出の地として彼が選んだのは、世界屈指の高級ブランドが軒を連ねる「銀座」でした。黒と白を基調としたシックでラグジュアリーな店舗デザインは、チョコレートを単なる「お菓子」から「ジュエリーのような芸術品」へと昇華させました。
チョコレート・パフェの功績
銀座本店などのカフェで提供される「チョコレート パフェ」は、マルコリーニの名を一般に広く知らしめる最大のフックとなりました。 「ビーン トゥ バー」で培った濃厚かつキレのあるクーベルチュールを使用したアイスクリームは、従来のパフェの概念を覆す美味しさとして、メディアで連日取り上げられ、数時間の行列ができる社会現象となりました。
日本限定商品の開発
マルコリーニは日本の素材(ゆず、抹茶、ほうじ茶など)にも深い敬意を払っており、定期的に日本独自の嗜好を取り入れた作品を発表しています。また、ミスタードーナツなどの身近なブランドとのコラボレーションを通じ、幅広い層に「本物のチョコレートの味」を届ける活動も行っています。
ピエール マルコリーニを象徴する代表作
クール フランボワーズ(Coeur de Framboise)
ブランドのアイコンとも言える、真っ赤なハート型ショコラ。ホワイトチョコレートのシェルの中に、ラズベリーで香り付けした甘酸っぱいガナッシュが閉じ込められています。
グラン クリュ(Grand Cru)
「ビーン トゥ バー」の真髄を味わえる逸品。特定の産地のカカオ豆のみを使用したシングルオリジンのショコラで、ワインのように産地ごとの「テロワール」をダイレクトに感じることができます。
マカロン(Macarons)
パティシエとしての腕が光るマカロンは、外側はパリッと、中はしっとりとした絶妙な食感。自社製チョコレートをふんだんに使用したガナッシュが特徴です。
まとめ:カカオの未来を創るショコラティエ
ピエール マルコリーニは、単に美味しいチョコレートを作るだけでなく、カカオを栽培する人々、環境、そして消費者のすべてを幸せにする「持続可能な贅沢」を体現しています。
「カカオの心を知る」という彼の信念は、一粒のチョコレートの中に、地球の裏側の農園の風景と、職人の揺るぎないプライドを封じ込めています。次に彼のチョコレートを口にする際は、その一粒が歩んできた長い旅路に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
参考文献・公式リンク
- ピエール マルコリーニ 公式サイト(日本) https://pierremarcolini.jp/
